ことのはじまり
出会いは、それが意味を持つものであればあるほど、何の前触れもなく、突然に訪れるものである。・・・というのはあくまでnu-nuいち個人の感想ではあるが、これまでの経験と照らしてみても、それほど的外れなことを言ってはいないと思う。
2月某日。3人のおじさんは寒さに肩を震わせながら、青山学院大学のほど近くの、感じの良い小ぢんまりとしたオフィスの扉をくぐり、とある男性を訪ねていた。
「はじめまして、よろしくお願いいたします。世田谷サウナハットラボの瀧澤です」
がっちりと握手を交わすおじさん3人と、もうひとりのおじさん。
東京オジサウナ初の、コラボレーション企画が産声を上げた瞬間であった。
起こしましょう、化学反応
世田谷サウナハットラボとは、過剰発注や大量生産によって生まれた”あまりもの”の素材をサウナ用品として生まれ変わらせ、オリジナルグッズとして展開しているブランドである。サウナ業界と繊維業界をともに盛り上げていきたいという意志こそがこの活動の原動力であり、実は儲けはほとんど出てはいなかったりする。そんなことを瀧澤さんは私たちに語ってくれた。
崇高な意思の宿った、崇高な活動である。これ以上ないくらいに。
ただ、いったいどうして、そんな世田谷サウナハットラボさんが僕たちに声をかけてくれたのだろうか?問いかけてみた。
「東京オジサウナのアカウントを見つけて、なんだか面白いことをしている3人だなと思って。おかしな画像を投稿したり、曲を作ったり、サイトを運営したり。ぼくはアパレルのことしかわからないから、だからこそ、手触りのあるモノを作り出すことに長けた私と、オンライン空間で縦横無尽に面白い活動を続けている東京オジサウナさんで、一緒に何かを始めることができたら、意外な化学反応が起きるんじゃないかなって」
なんて、ありがたく、もったいないお言葉。
自分たちのことを面白がってくれる人がいるというのは、思ったよりも嬉しいことなんだな、としみじみと実感した。
用を為すということ
世田谷サウナハットラボがいま使っている素材はね・・・、と言って瀧澤さんが見せてくださったのは、よくある薄手のフェルト地ではなく、肉厚なウール地の記事で作られたサウナハットだった。一目見て、お~、と声が漏れ、手に取って触ってみると、おおおお~、とさらに声が漏れた。少し見て触るだけで、これはちょっといい素材だなとわかる、あの感じ。
「これは、尾州ウールという素材なんです。冬物のしっかりしたコートに使われるような素材」
瀧澤さんが丁寧に教えてくれた。
なんでも、コロナによってビジネスシーンに対応できる高級コートの需要が激減してしまい、この生地が余ってしまったらしい。生地屋から相談を受けた瀧澤さんが、思い切って生地を買い切り、その生地をサウナハットに加工して販売しているとのことであった。
高価格帯のコートに使われる、クオリティの高い生地であるがゆえに、高温多湿のサウナという環境においても十分用を為すということであった。
用を為す、というのはいい言葉だなと思った。クオリティに一切の妥協をせず、誇りを持った職人によって丁寧に作られ、競合優位性を備えたプロダクト/素材は、たとえ一時的に需要が低減したとしても、どこかで必ず、その存在が求められるシーンが生まれるのだ。
しっかりと目地の詰まったウールで仕立てられたコートは、防寒性とラグジュアリー感を両立させた立派な一着だったに違いない。ビル風の吹きすさぶ丸の内で、イルミネーションに彩られた表参道で、夜の六本木の歓楽街で、そのコートはこれまで用を為してきたのだ。
コロナ禍によってコートが活躍するシーンはすっかり影をひそめてしまったが、その代わりに、セルフメディテーションの手段として空前のサウナブームが訪れた。結果として、高温多湿のサ室の環境から頭部を守るサウナハットという新たな需要が生まれ、いま、尾州ウールはサウナハットとして新しく用を為そうとしている。
それは偶然のようでもあり、必然のようでもある巡り合わせだ。
まったく不思議な縁だと思うし、とっても素敵な縁だと思った。
あとは試作を待つばかり
コラボサウナハットの仕様は、きわめてシンプルなものとした。
落ち着いた色調のウール地に、東京オジサウナのロゴをちいさなサイズで刺繍する。オリーブオイルと塩だけで食べるサラダみたいなシンプルさである。それはなんといっても、尾州ウールという素材が素晴らしいから。
それから僕たちは、いくつかの実務的なテーマについて(詳細な仕様、生産ロット数設定、販売チャネルなどなど)小一時間ほど話をしたのちに、瀟洒なオフィスを後にした。
試作品が仕上がるのは数週間後とのこと。これはいいものができそうだぞ、という確信を胸に、3人のおじさんは清水湯へ向かって歩き始めたのであった。
灯台下暗し
まったくもって、満たされた一日だった。いい出会いは、人生を豊かにするものだなあ。自宅に戻り、缶ビールのプルタブを開け、しみじみと反芻する。
スマホで尾州ウールを検索してみる。調べれば調べるほど、魅力的な素材であるいことがわかった。濃尾平野の肥沃な大地と木曾三川の豊かな水資源を出自とするその歴史。国内の約8割の毛織物生産量を支える工場設備と職人の存在。そして深刻な後継者不足に直面しているということ・・・。興味は尽きない。
ネットサーフィンを続けるなかで、漢字の「尾」をモチーフとした、尾州ウールのロゴを発見した。地場産業のブランド化を推進するためのひとつのやり方なのだろう。「尾」のなかに「毛」が内包されているということに気づかされる、素敵なロゴデザインだと思った。と同時に、このロゴ、どこかで見たことがあるなと思い、クローゼットを漁ると、見つかった。
まさに、灯台下暗し、であった。
「TTNG」のMVでも着用していた、たっぷりとしたビッグシルエットが気に入っているウールジャケット。その裏地に、しっかりとこのロゴは鎮座していた。
そう、すでに僕は尾州ウールのお世話になっていたのであった。
改めて、まったく不思議な縁だと思うし、とっても素敵な縁だと思った。
世田谷サウナハットラボ × 東京オジサウナのコラボレーションによる、オリジナルサウナハット「TOKYO OJI SAUNA HAT」、完成を楽しみにお待ちください!
nu-nu