四月、吉日
生ぬるい風に吹かれ、桜の花びらがはらはらと散り始めるころ。 再び表参道を訪れたぼくは、青山の瀟洒な街並みを横目に足早に歩いていた。 目指すはもちろん、世田谷サウナハットラボのオフィス。 「たのしみだなあ」「せやなあ」と、もう何度目かになるやりとりをIPと繰り返す。
四月、吉日。
今日は待ちに待った、世田谷サウナハットラボと東京オジサウナの想いが具体的な形として結実する日。 すなわち、「TOKYO OJI SAUNA HAT」の試作品の現物確認の日である。
電車に乗り遅れ、待ち合わせ時間に大幅に遅刻していたibuを置いて、ふたりは世田谷サウナハットラボのガラス張りの扉をくぐった。
さっそくですが
オフィスの扉を開けるとすぐに、前回同様、世田谷サウナハットラボの瀧澤さんが素敵な笑顔で出迎えてくれた。
「さっそくですが、これ・・・」
と、満面の笑みを浮かべる瀧澤さんの前には、異様な存在感を放つ、東京オジサウナのオリジナルサウナハット「TOKYO OJI SAUNA HAT」の試作品!
「さっそくですが、では・・・」
と手に取る我々。 手に取って驚くのは、やはり尾州ウールの柔らかながらもどっしりとした質感だ。
頑強な縫製で仕立てられたウール製のサウナハットは、平らな机に置けばしっかり自立する。巷でよく目にするような、薄いフェルトやタオル地のサウナハットとはまったく異なる、マッシヴな存在感がたまらない。 まさに、社会人生活も10年を超え、酸いも甘いも嚙み分けてきたおじさんにふさわしいサウナハットであるといえよう。
そのクオリティに感動していると、おもむろにオフィスの扉が開いた。ibuだ。 挨拶もそこそこに、試作品を手に取ってまじまじと眺めたibuがぼそりと呟いた。
「おおお・・・これは、いいね」
祈りや呪いにも近い所作
そして何より楽しみにしていた、「東京オジサウナ」ロゴの刺繍。 これがもう、すごかった。
僕たち3人が「東京オジサウナ」を結成して直ぐに取り掛かったのが、ロゴの作成だった。 といっても、3人ともデザインは素人。 図書館でロゴデザイン関連の書籍を漁り、夜な夜なFigmaにログインし、ああだこうだとリモート会議を繰り返し、そうしてできたのがこのロゴだった。 拙い造形ではあるものの、自分たちなりに細部にこだわって作り上げた、東京オジサウナ初のアウトプットということで、非常に思い出深いものである。
そのロゴが、細部へのこだわりを保ったまま、刺繍という形で再現されている!
コンマミリレベルの緻密さで縁取られたアウトラインは、綺麗な直線ではなくわずかに揺らいでいる。それはまさに、僕たち3人がデザインの際に最後までこだわったポイントであった。 無機質さとは縁遠い、ふるふるとした微妙な揺れを刺繍データ化し、ミシンによって再現するのはけして容易なことではなかったであろう。
それは、紛れもなく、プロの刺繍職人の仕事であった。
思えば刺繍とは、人の強い想いを、そのひと針ひと針に縫い込めているという点において、「仕事」や「作業」というよりも、むしろ「祈り」あるいは「呪い」に近い所作である。
「TOKYO OJI SAUNA HAT」の刺繍には、コロナによって行き場を失くした尾州ウールのやるせなさや、そんな中でもサウナハットとして次なる命を吹き込まれたことに対する希望、モノづくりの火を絶やしてはならぬという決意、そんな強い思いがしっかり縫い込められている。
ハンカチからミサイルまでもが等しく大量生産が可能なこの時代。歴史ある尾州ウールという素材によって仕立てられ、刺繍職人の手によってロゴマークが印されたこの「TOKYO OJI SAUNA HAT」は、近代資本主義的産業構造からぽつんと取り残されたオーパーツのようにも感じられるのであった。
うららかな春の日、いざ生産へ
現物チェックには何の問題もなく、いよいよ生産工程へ進もうということでミーティングを終えた東京オジサウナと瀧澤さん。 メンバーは4人。ライトグレー、グレー、ミディアムグレー、マルチパターンと、試作品もちょうど4色。 せっかくだからと、「TOKYO OJI SAUNA HAT」を被って青山の街を少しだけ歩いてみた。
すれ違う人たちが、怪訝な目で僕たちのことを見る。
なんで、この人たちはそろって同じ帽子をかぶってるんだろう? というか、このヘンな形の帽子、なんなんだ? なにより、なんでこの4人のおじさんはこんなにニコニコしているんだろう?
そんな視線はお構いなしに、僕たちはうららかな春の日の散歩を満喫したのであった。
世田谷サウナハットラボ × 東京オジサウナのコラボレーションによる、オリジナルサウナハット「TOKYO OJI SAUNA HAT」、完成を楽しみにお待ちください!
次回はいよいよ、東京オジサウナの3人でこのサウナハットをかぶってサウナに突入予定です。
nu-nu