尾州へ
東京オジサウナハットの試作品を手にしたのが四月の中旬。 以来、早くサウナで試したい、という気持ちがどんどん高まるメンバー3人であったが、絶望的に3人のスケジュールが合わず、そわそわと日々が過ぎていく。 ある日は休日勤務で、ある日はソロサウナ活動で、ある日は家庭の事情で、いくつかの候補が浮かんでは炭酸泉のあぶくのように消えていった。
スケジュール調整のLINE画面をぼんやり眺めながら、ふと考える。僕たちのような、30半ばの中年男性は、果たしてどのくらい忙しいものなんだろうか? 名前と顔しか(あるいはその片方しか)知らない友人との予定でカレンダーをぎゅうぎゅうに埋め尽くそうと躍起になっていた若かりし日はとうに過ぎたが、錆び付きはじめた身体に義務感という鞭を打ち付け、仕事と家庭のためだけに時間を擦り減らすには、まだ早い年齢だ。(あくまでも個人の感想です)
友人の数は減ったが、繋がりは密になった気もする。 我を忘れて没頭するほどではないが、暇を有効に過ごすだけの趣味は持っている。 仕事も、それなりに責任ある立場になってきた。 家庭がある場合もあれば、無い場合もある。
平均値も中央値も存在しない、中年男性の生きざま。 100人のおじさんがいれば、そこには100人の事情があるのだ。
間延びした風景とユーミン
そんなわけで、結局3人でサウナに行くことがかなわぬまま訪れたゴールデンウイーク。 僕はひとり、東京オジサウナハットの試作品を大切に抱え、尾州―愛知県西部から岐阜県西濃一帯のエリア―を訪れていた。
クルマの窓を眺めれば、木曽川の雄大な流れを背景に、田園と低層住宅がモザイクを為す、濃尾平野独特の風景が広がっている。自身がこのあたりの出身ということもあるが、僕は、この間延びしたようなおおらかな風景が、わりと好きだ。
せっかくなので、試作品をはじめて実践するサウナは、尾州エリアで探したい。 そんな思いつきに突き動かされ、サウナイキタイで愛知・岐阜でサウナ施設を探すと、導かれるように、自然との共生を謳った各務原のサウナ施設が発見できた。
ここ、いいな。
カー・ナビゲーションに「恵みの湯」とインプットし、窓を全開にする。五月の風はどこまでも爽やかで、おじさんの心を少しだけ若返らせる。車内のBGMを「シャツを洗えば」に変える。ユーミンと共に、完璧すぎる春の休日の喜びを高らかに歌い上げながら、クルマは越冬した天然鮎とともに木曽川を遡ってゆく。
施設に到着するやいなや、僕はマルチカラーの試作品をかぶり、入口へ足早に歩みを進めた。
あらゆるサウナーのための「東京オジサウナハット」
「恵みの湯」は、生ハーブの香りが特徴的なロウリュサービスと豊富なととのい手段(室内外に多数設置されたととのい椅子はもちろんのこと、ぬるめの炭酸泉に、なんと寝湯まで!)を備えた、岐阜県屈指のサウナー御用達の施設。
ハーブの香りがうっすらと漂う浴室をどきどきしながら二周、三周し、いざゆかんと気合を入れ、マルチカラーの東京オジサウナハットを被ってサウナの二重扉を開ける。 ロウリュ直後だったため、むわりとした湿度と、むせ返る生ハーブの香りが心地良い。温度計は93℃を指しているが、体感温度は100℃を越える気持ちよさ。
ここまでしっかり熱いサウナだと、普段であればタオルを頭部に巻き付けるところだが、今日はサウナハットを被っているため、タオルは手持ち。サ室の両側に設置されたストーブからじりじりと炙られるが、頭部が肉厚なウールでしっかり守られているおかげで、頭が茹だる感じはあまりない。一方、頭部以外はしっかりと肌で熱を感じ取り、ぷつぷつと汗腺から汗の雫が生まれてくる。手持ちのタオルでしっかり汗を拭きとれるのが嬉しい。
結局、サウナハットを使用しない普段と比べ、明らかに長くサ室に滞在をすることができた。さらに、水風呂から外気浴に至る一連のルーティンにおいても、長い滞在の反動もあって、非常に“ととのい度合い”が高かった。身体と周囲の境界線が曖昧となり、ふわふわと浮遊する感覚がずっと持続する。この季節特有の、穏やかな日差しとそよぐ春風を全身で受け止める。
ああ、これはすごいぞ。まったくいつもと違う。本当に気持ちいい。 予定が押していたため、この日は2セットだけのつもりだったのだが、サウナハットというリーサル・ウエポンによるサウナ体験の新地平が、僕をどこまでも魅了する。1セット、もう1セット・・・と未練がましく追いサウナを繰り返した結果、最終的には4セットを満喫して浴室を後にしたのであった。
風呂上り。オロポを飲みながら、東京オジサウナハットの効果を反芻してみた。 サウナハットを被る唯一にして最大のメリットは、もちろん、頭部が過熱状態に陥るのを防ぐことである。 では、どうして頭部が過熱状態に陥るとまずいのか? どちらかといえば、これまで僕が触れてきたサウナー内の文脈においては、その理由を「頭皮・毛髪へのダメージ」に求めることが多かったように感じる。
しかし、あくまで私見だが…。 過熱状態を防ぐことから生まれる最も本質的なメリットは、「脳内SOSサインの発令を、少しでも遅らせられる」すなわち、「サ室内の滞在時間を延ばすことができる」点にあるのではないか。 結果として、身体が普段よりも熱せられる。キンキンの水風呂に浸かり、四肢を伸ばせば、これまでに体験したことのない温度差が自分を襲う。自らが作り上げていた限界を突破する瞬間だ。その後に訪れるディープリラックスの満足度は、言わずもがな。あらゆるサウナーにとっての悲願である「ととのいの境地」に近づくためのアイテム、それがサウナハットなのである。
ゆえに僕は、自信を持ってこの「東京オジサウナハット」を、すべてのサウナーに自信をもって紹介したいと思う。 オロポを飲み干し、僕は、改めて世田谷サウナハットラボというプロダクトのすばらしさに心から拍手を送った。
そして、これは後日、世田谷サウナハットラボ瀧澤さんより教えて頂いた事実なのだが、「恵みの湯」は世田谷サウナハットラボが初めて卸しでの商売をした施設であったとのこと・・・。 何という偶然のめぐり合わせ。何という運命。
質実剛健
これまでお伝えしてきた通り、「東京オジサウナハット」の素材は、頑強さと質感を両立する高級素材・尾州ウールである。ただし、だからといって手洗いが推奨されているわけではない。ネットに入れて洗濯機でガシガシ洗える丈夫な仕様である。
ぼくも、使ってから2時間後くらいに洗濯機での洗浄を行った。 少なくとも1回サウナで使用して、1回洗濯機で回した限りでは、使用によるクオリティ劣化(消耗性)はまったく確認できなかった。
元来冬物のコートとして仕立てられてきた丈夫なウール生地であるからこそ、薄いフェルト製のサウナハットと異なり、乱雑に折り畳んでも折り皺ができることもない。まさに、質実剛健という概念がそのまま紡錘形の形を取ったようなプロダクトである。
少しでも「ととのいの境地」に近づきたいと思う、すべてのサウナーに贈りたい。 エコで、長く使える、サウナ好きのおじさんの想いが込もったサウナハット。 「東京オジサウナハット」、近日発売予定です。お楽しみに。